・・・今日も平和だ ぼんやりと町を歩きながらクルスは呟いた 「いらっしゃいませ〜。いらっしゃいませ〜。」 店の売り子が声を張り上げる。 「いらっしゃいませ〜。ちょっと発酵しすぎた発酵食品、半額で〜す。いらっしゃいませ〜。」 「コラ!余計なことは言わなくて良い!」 「は〜い…いらっしゃいませ〜」 「・・・なんだ、あの店」 「・・・ちょっと行ってみるか」 どうせ暇だから 「いらっしゃいませ〜。ネズミの囓ったチーズ半額で〜す…お客さん、試食しては如何ですか?」 店に入りかけたクルスに、売り子が美味しげなチーズと怪しげなチーズが半分ずつ乗った皿をつき出した。 「・・・・・・」 とりあえず、両方のチーズを見比べてみる ・・・ネズミ? ・・・いや、そんなもの客に出すだろうか? 「・・・じゃあ、こっちを食べてみてもいいか」 店の良心を信じて、美味しそうな方を指差した 「こらジャスミン!ネズミなんて言うな!…済みませんねぇお客さん。」 店の主と思しき男が、いひひとどことなく卑しげに笑う。 「はい、どうぞ。うふふふふ…」 売り子の悪びれたところのない、あまりにナチュラルな笑顔にクルスは多少胡散臭さを感じた。 「・・・ひとつ、聞きたいんだが」 「・・・安全だな? このチーズ」 「ええ、そりゃあもう。この子は変なこと言いますがね、うちの商品は絶対に安全!他の店なんかよりずっといい品質ですよ。」 「うふふふふ…。」 「・・・・・・」 非常に胡散臭さを感じるものの、一度もらうと言ったものをやはりやめる、なんていうのは失礼だ、と考えたクルスは、ゆっくりした動きで皿からチーズを一切れつまんだ チーズは…確かに美味だった。非常に良く熟成させられた…というか、所謂賞味期限ギリギリの、危険な熟女もとい熟チーズの濃厚な味わい。 「ね、美味しいでしょう?一つどうですお客さん?」 店長がねちこく商品を勧める。 クルスは店内を見回した。品揃えは可もなく不可もなくといったところだ。 まぁ、味は悪くないんだから一つくらい買っていってもいいんだが・・・ ・・・でもなんか胡散臭い・・・ような? 「・・・じゃあ、一つ」 店長が何かをする前に、売り子が素早くクルスの試食したチーズと同じモノを取り出した。 「はいこちら、400ルピーです。」 「・・・はい」 とくに何も疑わずにクルスは400ルピーを出した 店主はなにげにほくほく顔で金を受け取り、丁寧にチーズを紙に包んで、クルスに手渡した。 売り子は腑に落ちぬ顔でそれを眺めていた。 が、気を取り直したのかチーズの乗った皿を持ち、店の入り口付近に立って客呼びを再開した。 「・・・?」 それを不審に思ったクルスは、店主のまいどーという声を背に店を出ると、店の中からは見えない位置に立って売り子に話しかけた 「どうかしたのか?」 「は?いえ?どうもしてませんが?」 しらを切る売り子。 天然ボケなのか、それとも余程演技が上手いのか…。 「僕が店主からチーズを受け取るとき、妙な顔をしていただろ」 購入したのが食品という性質上、気になるクルスだった 「…いえ、それは…ねぇ。」 言い淀む売り子。何か裏がある、とクルスは感じた。 「一体何を隠しているんだ?」 「だって…あんな小っさいチーズ400ルピーも出して買う人、見たことなかったもんですから…。しかも言い値だし。」 「・・・普通じゃないのか?」 「さぁ…この辺の相場は良く分かりませんが…皆さん大体200ルピー位で買って行かれますよ?」 「・・・ちょっと待て なんで400・・・」 「え、だって値切られると思ったので…。それに、最初は多少ふっかけないと、私が店長に怒られるんですよ。」 「・・・・・・」 「・・・普段、買い物なんてしないからな・・・」 「ハハハハ…。」 困ったように売り子が笑う。 丁度その時、店長が店の中から売り子を呼んだ。 「あ、では私はこれで…。」 売り子が小走りに、店の中へ入っていく。 「あ・・・」 教えたくれた礼を言おうと思ったのに・・・まぁしょうがない 今日の事は、勉強料だと思って諦めるか そう思って、城へ帰るクルスだった 終わり おまけ 「実はそれまで店主はネズミの囓ったチーズだの発酵しすぎた発酵食品だのを何喰わぬ顔で販売していた。そして、ジャスミンが売り子に来、一体何があったのか店長がジャスミンの怒りを買い、その商売法を暴露されつつじゃまされつつ 外面の良いジャスミンを上手くクビにできないで居たが、今回の事がきっかけで晴れてジャスミンから解放された。 と思ったら、ジャスミンは同じ街の宿屋兼食堂に就職し、店長の悪口をひととおり振りまいてから街を出て行ったという…。 めでたしめでたし。」